ガキじゃあるまいし何ですか、コレ。




キャンディ




震えた指先はもう何分間も2枚のカードをさまよっている。


「てめ…長ぇんだよ」

「だだだって、この一瞬で決まるんだよ!」

「…どうでもいいから早くしなさいよ」


今、蕪木家にウミ、苺、花楓が集まりトランプ大会が行われていた。

偶然4人とも仕事がなく午前授業だったということでナカが提案したのだった。

もちろんウミとしては不本意であったが。

しちならべ、神経衰弱、大富豪、現在は定番、ババ抜きの真っ最中。

さまざまなトランプ競技をしているが、結果は、

「あああー!また負けた…」

常にナカの惨敗。

1位から3位は変動するが、底辺だけは固定されているかのように変わらない。

それでもナカは諦めず、何度も再戦を望むのだ。


「おら、最下位。配れ」

「はい…」

「ちょっとウミ!ナカに足でぐりぐりするの止めてよ。汚いわね」

「そーだそーだ!」

「苺ちゃん…花楓くん…」

ナカは二人を涙ながらに見つめる。

ウミはそれが気に入らず、舌打ちした。


すると、

ピピピッ

「…あら?」

苺の携帯が鳴った。

花楓も画面を覗きこむ。

どうやらメールのようだ。

「えー!俺行きたくねぇ!」

「せっかく休みだったのに…

 ごめんなさい、二人とも。仕事入ったわ」

花楓はぶつぶつ言いながら鞄を手に取る。

「たっ大変だね…頑張って!」

「早く行けよバカ双子」

「ありがと、ナカ。

 ナカに手出すんじゃないわよ、ウミ

 じゃあね」

そして立ち上がって玄関に急ぐ。

「手って…!うわっ苺待てよ!」

ナカが見送りに出ようと立ち上がったところ、いいわ、と少し恥ずかしそうに断り二人は蕪木家を出て行った。



そして、二人きりになった蕪木家。


「なんか二人でトランプっつーのもつまんねえな」

「そっそう?」

相変わらずトランプを続けていた。


そこで一つ、ウミが提案する。

「ただトランプするだけじゃつまんねえから、三回勝負で負けた方が罰ゲームな」

「わわわかった!勝った方が罰ゲーム考えるんだね!」

「ああ」

ナカは久々に極悪面になり、真剣に気合いを入れていた。

ウミはもちろん、今までのナカのゲーム成績を見てこんなことを提案したのだった。



一回目。

「ま…まだまだっ!」


二回目。

「うっ…」


三回目。

「あああ…!」


結局、ウミの全勝でナカはトランプを見つめながら体操座りで沈んでいた。


「罰ゲーム、だな」

にや、と笑ってナカに近づく。

「…なにをすればよいのでしょう?で、できれば痛くないことでっ!」


ウミは勝利を確信していたので、トランプ中もずっと罰ゲームを考えていた。

せっかく双子もいなくなったことだし、二人でしかできないこともしたい。

そんな思いもあった。

そしてさっきまで触れられなかった憂さを晴らすため、少しナカを困らせたかったのだ。

だから、


「俺が喜ぶことをしろ」

それが罰ゲーム。

ナカはきょとんとしている。

そしてすぐさま眉間にしわが寄り、考え込んでしまう。

ウミは見慣れたナカのベッドに深々と腰を下ろし、高みの見物だ。

ナカはときどきウミのほうをちらりと見てはまたうつむく。

そんな姿が言いようもなく可愛くて。

ウミはこらえきれず、声を殺して笑う。


そして何分か後、パッと立ち上がって、自分の鞄を漁り始めた。

何かを取って、ウミのほうへ急ぐ。

「ウミ!」

「…なんだそれ?」

「手だして」

言われるままに手を差し出すと、ナカの柔らかい手が触れて手の平に何かの感触が残った。


「あっあのね!

 あげられるものが今それしかなくってね!えっと…」

ウミは、手の平に視線を移す。

色とりどりの飴が何個も乗っかっていた。


必死で説明を続けるナカを見て、また笑いが込み上げてきた。


――あんな悩んで、これかよ。


そしてナカを見ると、不安そうに見上げる瞳があった。

「不可…ですか?」

そんなナカがまたおかしくて、その細い身体を引き寄せた。


「不可に決まってんだろ!

 まあ…ナカと一緒に食うんなら、悪くねぇけど」

そういって、ナカを見つめて飴の包みを一つ開ける。

「ちちちがっ!そういった意味じゃなくて…っ」

「飴でも十分嬉しい」

吐息ほどのささやかな言葉が耳に直接吹き込まれ、ナカは固まってしまう。

そして、包みから出された飴はウミの口に放られ、いつか二人に溶けゆくのだった。


ガキじゃあるまいし、なんだこれ。

でも、単純に嬉しかった。


fin.

****

あとがき。
ウミナカ初のお題です。
ナカラブな苺ちゃんと可哀想な花楓くんが大好きです!
んでもうバカップルなウミナカが大好きです!(結局みんなが大好きで仕方ない)

written by...澪