太陽が沈む。でもあなたは笑ってくれている。

雨が上がる。でもあなたは傍にいてくれている。

大丈夫。わたしの恋はまだ終わらない。




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「なにやってんだ?」

ウミは目線を、座っている二人の少女に下げる。

毎時間のようにナカの元にやってくる。

苺が時々にやにやしながらため息をつくが、気にしていないふりをする。

同じ教室にナカがいることが何ヶ月経っても嬉しくてしょうがないのだ。

本当は苺にも知られたくないが背に腹はかえられない。


長身の彼の顔とほどほどの高さしかない机とはかなりの距離がある。

その机の上にあるものに視線をうつす。


「ええええっと、きき昨日苺ちゃんと撮ったプリクラを分けているんですよ!」


なるほど、机の上には様々な大きさの四角いプリクラが並べられている。

ナカもプリクラを撮るのか、と普通の女子高生には当たり前のことに驚いた。

なぜだか、ナカには普通という言葉が似合わない。だからときどきプリクラ機に入ってゆく女たちを見てもナカがそうする姿を想像したことさえなかった。

どんな風に写っているのかとその一つを手にとっり、唖然とする。

「相変わらずものすごい顔よね…」

と、苺がウミの言いたいことを察してプリクラを見ながら頷く。


「てめ…プリクラでもこんなんなんのかよ」

小さな四角の中にいるナカは普通にしていれば想像もつかないほどの暗黒のオーラに取り巻かれていた。

もちろん言うまでもないが、その顔は噂の極悪面でポーズまで奇妙にきめられている。


「なななんだか…緊張してしまいまして…その…お仕事以外で写真を撮ることあんまりないから」

苺がずっと見ていたプリクラから目を離し、今もいろいろなプリクラを手にとっているウミを見上げる。

「ウミも、仕事以外は写真撮ったりしないの?」

いきなりの質問にウミはふと今までに立ち返る。

「…そういえば…あんまねえかも」


中学時代からモデルと生徒会の仕事とでなかなか写真などプライベートでとる時間がなかった。

そんなことを思ったことさえなかった。


苺は、やっぱり、という風にため息をつく。

「あんたたち、今は今しかないんだから、あとから思い出そうとしたときにモデルの写真ばっかりじゃ寂しいわよ?」

「はあ…」

ナカはきょとんとした顔をしている。

苺の言うことは尤もだ。

思い出を形に残しておくことも大切だろう。

ウミは一人、計画を立てることにした。




「おいナカ」

放課後、下駄箱でいつものように名前を呼ぶ。

普段学校内では呼ぶことを避けている名前。

だが、誰もいないそこで二人きりならすぐにでも切り替える。

「何?…ウミ」

つい、名前で呼ばれたのが嬉しくなってナカからも呼びかけた。

ナカの瞳に眼鏡ごしのウミの澄んだ瞳が映る。


「来週の日曜オフか?」

靴をとりだしながら頭の中のカレンダーをひっぱりだす。

「来週の日曜…は、あ。1日まるまる空いてるよ」

「じゃあ学校来い。俺が制服だから…制服で来い。」

「はっはい?」

「詳しくは来週のお楽しみだ。時間はまた連絡するから」

「はあ…」


いつになく強引なウミの誘い。

ウミはよく生徒会の仕事で学校にいる。だから学校で、と言ったのだろうが…

ナカにはよく意図が分からなかった。






あの不思議な誘いを受けてから全貌は明らかにならないまでもナカはずっと楽しみにしていた。

なんだかんだと言ってもウミとのデート(学校とはいえ)は久しぶりなのだ。時が経つのは早かった。


ナカは、恐る恐る生徒会室の扉を開ける。

ウミしかいないだろうとは思いながらもやはり緊張してしまうのだ。


「おおおおはよう、ウミ」

「…よう。早かったな、てめーにしては」


案の定室内には学校モードのウミ一人で、まだ会長でもないのに会長の机に足をのせて座っていた。

「ウミ…いいの?その机」

「いんだよ。じゃ、行くぞ」

どこに?と問う間もなくせかせかと生徒会室を出て行ってしまうのでナカは急いで追いかけた。

全く、どういうつもりなのか検討もつかない。だが、予想もつかないウミの行動は決まってナカの世界を一瞬にして変えてしまうのだ。




廊下を歩くと、微かに音が響く。

そんな微かな音でもしっかり聞き取れるくらい日曜の学校は静かだ。


ウミは何も言わずに先を行くだけである。どこへ行くともなく進んでいるようにさえ見える。

行き先や目的が分かっていないと勝手の分かる学校内でさえ不安になってしまう。

そういうものだ。


「あ…あのっ!ウミ!」
「このへんでいいか」

このへん?

「このへんでいいかじゃなくてですね…そろそろネタバ…」

レ、と言おうとした瞬間ナカを眩しい光が襲った。

「…ウミ、それ」

「なかなか普通の顔して写ってっぞ。よかったな」


あのはじけるような光は、デジカメのフラッシュだったのだ。

薄暗い廊下であったため、ナカの視界はまだチカチカしていた。

「なんで…?」

「べべべ別にこのまえ苺に言われたからってわけじゃねえけどな!…思い出、あったほうがいいかなって思って…」

――あ、このまえのか…

ナカは今までそんなことを思ったことはなかった。ただ、ウミと過ごせるだけでよかった。絶対に忘れない自信があった。


しかし、ウミが自分と過ごした日々のことを形に残そうと、一緒に残してくれようとしてくれていたことが言いようもないほど嬉しいかったのだ。

「おまえ、言ってたら絶対緊張してくるだろ?
 だからギリギリまで言わなかったんだけど」
「ウウウウミのこと考えてたら平気だよ!」

ウミが言葉を言いきるか言いきらないかのうちに力説する。

いつもウミは、常にいきなり飛んでくる…しかも、少しの冗談も入っていない直球に撃ち抜かれるのだった。


「おまえそんなん真顔で言ってんじゃねー!」

「すすすすみませんー!」






二人は、ウミのデジカメを持って一つ一つ、思い出の残る場所を回った。

まだ学校には長い間行かなければならないが今、誰にも邪魔されないこの時に忘れられない思い出として残しておくのも悪くない。


中学校舎やグラウンドなど足の向くままに歩いた。


「なんか、わたしばっかり撮ってもらってる気がするんだけど…」

「しょーがねーだろ。てめーが撮るとぶれまくりなんだよ」


と言ってまたフラッシュが光った。

結構な数の場所を回ったが、ウミの写っている写真は少ない。


「じゃじゃじゃじゃあ、二人で撮りましょう!
 ウミが押してくれるならいいでしょ?」


そう言って、ナカが手招きをする。


ウミはあまりにも一生懸命なその顔に

「バーカ」

と、つぶやいてナカに近寄った。



しかし、いざ撮ろうとするとなかなか上手く撮れないもので。

近すぎたり、一部が切れていたり。


でも、二人はなんだかそれも自分達らしく思い、残しておいた。



そして、一段落ついてもう一度生徒会室に戻ってきた。


「楽しかったね」


隣で寄り添うナカの笑顔が見える。

ウミはカメラを握る。


名案が浮かんだのだ。


そしてナカに顔を近づけてゆく。

真剣な目が、ナカの瞳に映り、やがて閉じられた。


唇を重ねた瞬間、感じる暗闇の中に光が放たれた感じがした。


ナカは驚いて目を開けると、ウミのいたずらっぽい目がこちらを見ていた。

「――…!」



目を見開いて、何か言おうとしているナカに容赦なくそんな暇も与えないほどのキスを贈った。

ようやく唇が離れて、まだ息が上がっているナカに、


「ここでも思い出、作っとかねえ?」


ウミはにやっ、と笑みを浮かべた。


「こっ…このっエロガッパ…!」

「バーカ」



きっと、この二人過ごした時間に終わりなんて無いんだろう。


そんなことを思いながら目を閉じた。


fin.

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あとがき。
実はずっと前から書き始めてた話なのですが結局こんなシメに…
なんかまとまんなくってですね笑
ラストはご想像におまかせします♪

written by...澪