その気持ちは、隠さないで。

全部見せろ。




かくれんぼ




ウミはその、目の前の顔ぶれに、早く帰っておけばと激しく後悔した。

廊下を塞がれているためとおりぬけることが出来ない。

「…そこ、どけよ」

「わたしたち、帰りたいんだけど」

「そーだそーだ!」

「ええええっと…」

いくら睨みをきかせても動じず、顔色一つ変えない。

それが、

「梶原会長、蕪木さん、有田さん、有田くん…かくれんぼしましょう」

生徒会メンバー。


「…はあ?」

「意味分かんねんだけど」

いつもウミをいじるためならなんでもする。

しかし、かくれんぼだなんていつになく突拍子のない提案だ。

ウミにも検討がつかない。

「かくれんぼなんかしねーよ!帰る!」

大股でその場を去ろうとするが、和泉に止められる。

そしてナカには見えないように目の前に突き出されたものは…

「なっ!」

「うわっ!」

「ちょっ!」

双子にも見えていたらしく3人とも驚きのあまり口をポカンと開けている。


「…これ、参加してくれなければバラまきますけど」


押村の冷ややかな表情と、ナカの隠し撮り写真には勝てなかった。


「おいナカ!やるぞ!」

「…?」

ナカはわけも分からず、首をかしげるしかなかった。



「30分間そちらのメンバーが1人でも見つからずにいられたらそちらの勝ちです」

…もし負けたら。

――ナカの写真…!

言われずともナカ以外の3人は分かっていたので、なにがなんでも見つかるわけにはいかなかった。

「あああの!なぜみんなでかくれんぼなどということに…?」

「楽しそうだからですよ」

果てしなく胡散臭い笑顔を浮かべた4人がそこにいた。

「ほほう!」

一人納得するナカをよそに、ナカバカな3人は燃えていた…。




「会長見つけましたー」

意味もなく懐中電灯を持った押村にロッカーを開けられた。

ウミは恨めしそうに彼女を見上げた。

ロッカーの中で『蕪木さん大丈夫!?』という言葉が聞こえ、とっさに動いてしまったのだ。

その物音が予想外に響いてしまい、発見に繋がってしまったのだった。


残り5分。

苺も花楓もウミより前に見つかってしまっていた。

いずれも、生徒会の姑息な手段にひっかかってしまったのだ。

残るはナカ一人だけ。

もう学校に生徒は見受けられなかった。


なぜか生徒会メンバーはウミを見つけた場所から動こうとはしない。


「おい。蕪木見つけにいかねぇのかよ」

「…もうすぐ30分経ちますね!」

森が時計を見る。

「よーし、帰るかあ!」

「はい、そちらの勝ちでいいですから」

「梶原、蕪木さんを見つけておいてくださいね」

含み笑いをしつつ帰って行く4人。明らかに怪しい。 そして帰り際に和泉が苺にちらっと視線を配る。

ぱちん、と目が合った苺はその意図を悟ってしまった。


「…そういうこと。花楓、帰りましょ」

「えええ〜!?」

有無を言わさず花楓の腕をつかみ、引きずってゆく。

「おい!?苺…」

「じゃね」

――…まあ、釈だけど、ナカのためよね。




ガラ…、と今は使われていない教室の扉を開ける。

「…もう、ここしかねーだろ」

カーテンの下から、細い足が2本伸びていた。


「おいナカっ…て、こいつ」

カーテンをよけてやると、寝息をたてながら壁によりかかっているナカがいた。

声をかけても起きないほど熟睡している。

実は今日はナカにとって久々のオフだということをウミは知っていた。

数日、自分の仕事もあいまって、ろくに会えなかった。


『久々に蕪木さんと気がすむまでラブラブして帰って下さい。

 腑抜けで蕪木さんのことばっか考えて、役に立たない会長はウザいだけです…』

押村が去り際に残していった言葉。

このまるで意味の分からなかったかくれんぼの意図はそこにあったのだ。



起こすのも気の毒だと思い、しばらく見つめていたがその内にだんだん変な気分になってきてしまう。

開いた窓から流れこむ風。

同時になびくナカの髪の毛。

射してくる夕日。

同時に輝くナカの身体。

ウミの瞳に映るナカは眠っている姿さえも扇情的でそらすことができないでいる。

触れたいと心が叫ぶが、学校という場所が邪魔をして手を伸ばすことはない。


『あまり狼になりすぎると蕪木さんに嫌われますよ』

聞いていないふりをしていたが、和泉の言葉がはっきり耳に残っている。

気にしたくないと思えば思うほど、心に響くのだった。


だけど。

ナカの真正面に座ってみる。

危険だと分かりながらも近づいてみる。

その距離が縮むほどに、今まで自分を押し留めていたものが少しずつ遠退いてゆくのが分かった。


「ナカ…」

ウミは、眼鏡をとって近くにあった机においた。

きっと、触れてしまうと止まらなくなってしまう。

それは分かっているから、だからせめて声で、音でナカに触れる。


「ウミ…?」

その小さな、浮かんだような声に心臓を跳び上がらせる。

ナカの瞳はまだ閉じられたままだったので、ウミはほっとため息をつく。

しかし安心したのもつかの間、ナカの長い手がウミに向かって伸びてきたのだ。

「!」

「ウ…ミ、ウミ」

ウミの肌には触れられずに、弱々しく両手が震えた。

「ナ…」

「あいた…かった、よ」

ウミは、自分に向かって伸びている折れそうなほど儚い両手を優しく掴み、自分の存在を確かめさせるようにその唇を触れ合わせた。

ピク、と反応させた身体に電撃を浴びせるかのようなキスを仕掛ける。

時折跳ねるナカの足を感じ、自分の顔も上気してゆくように感じた。

「…ふっ、…は…ぁ」

吐息まじりに苦しげな声が聞こえだしたので唇を離した。

とうとう、抑制できなくなってしまった。

しかしもうウミにはナカしか見えなくなってしまっている。


「…はあっ…ウウウミ!

 かかかかくれんぼは!?散らばって隠れないと見つかります!」

「終わった。てめえが寝てる間に」

「そそそうなの!?…どうしてウミがここに…」

「迎えに来た」

しかし、その言葉とは裏腹にまたナカへとキスを贈る。

「んんっ…っふ…!」

理性などは捨ててしまったあとのキス。

未だ覚醒しきれていないナカの脳内は唇から熱く溶かされたようだった。


「ど…して?迎えに来てくれたんじゃあ…?」

「けど、我慢出来なくなった」

「えええええっ!」

叫んだナカの唇を塞ぎ、絡めとるように舌を捕まえると、ナカは観念したようにウミを受け入れた。



「あ…っ!や、…っ」

服は全てぬがされず、快楽に喘ぐナカ。

ウミの長い指は容赦なくソコを攻めこむ。

「あっ…ん、ひゃあっ」

「…濡れまくってっけど」

指に絡みつく液体をナカに見せつける。

いいタイミングで夕日が強く射し、きらきらと光り、ナカの身体がまた熱くなる。

「だだっ…て、あぁっえ…なかった…だもっ…」

本当は、会えなかった数日ずっとこんなことばかり考えていた。

ウミは感覚的にナカも同じだったことに気付き、口の端を上げる。

ぐるりとナカの内部を指で掻き回すと、卑猥な音とともにナカの嬌声が響いた。

「床、汚さねーようにしてやるよ」


膝の裏を持ち上げて、恥ずかしがるナカをよそに唇を寄せる。

「も…し、だれか来たら…っあっ!や…だ、んあっ」

「だれもいねーよバカ」

零れおちる蜜をすくいあげるようにして舌を動かすとナカの身体が震えた。

快感に堪えようとカーテンを握りしめる。

「やっ、ひゃんっ…あっ…ああっ」

自分に感じきって、零れおちる涙を拭ってやり、ウミも熱い息を吐く。

そして一気に突き上げた。


「ウ…ミっ!あっ…きゃ…っ」

ナカが抱き着くようにウミに肌を寄せる。

その指先の動きにさえもウミは過敏に反応してしまい、どんどん余裕がなくなってゆく。

「てめ…っ、そんなふうに…さわん、なっ」

「えっ…んぅ…!」

掻き乱すように動くウミにナカの内部は限界に近づく。

汗ばんだナカの額にキスを落とすと、また動きを速めた。

「や…ウミ…っ、もう…!」

ぎゅっと抱きしめた瞬間、二人は昇りつめた。



「…ウミ?」

未だ行為の余韻が抜けきらないナカの熱っぽい瞳が語りかける。

「おお仕事、大変で…っいろいろ、疲れたりもしたんだ…けど」

隣で手を繋いで壁にもたれかかっているウミの肩に、こてん、と頭をゆだねた。

「ウミが…いなくて淋しかったよ」

体温が一気に上昇してゆく。

指先に力が篭る。

「……俺も」

そしてウミは小さな声でそう、答えた。


fin.

****


あとがき。
企画SSです。
リクエストは「教室で、狼ウミさんにナカが食べられる・・・」でした!
久々裏です。気にいっていただけましたでしょうか?
なーちょさまへ贈ります。


written by..澪