友達に、聞かれると。




ウソつき




何人かの女子生徒が、まだ教室でなにやらお喋りをしている。

もうとっくに授業は終わって、夕方なのに帰る気配はない。


「あっ!今月の運勢◎だって!」

「うーん、これ本当かな〜?」

その真ん中に広げられている雑誌には、『占い特集』と書かれていた。

未来を占うアリスもクラスにはいるのだが、一部で流行っているのが雑誌や本の占いだ。

当たるか当たらないか分からない気楽さがアリスと違った、利点だ。


蜜柑は教室に忘れものを取りに来ていた。

教室の扉を開けようとすれば、にぎやかな声が聞こえる。

不思議に思って、そっと開けてみると女子生徒が気付いた模様で蜜柑に視線をそそぐ。

「蜜柑ちゃん!」

「どうしたの?」

「ちょっと忘れ物」

そして自分の机に向かう。


「何見てるん?」

忘れ物をとった後、少し気になって聞いてみた。

「蜜柑ちゃんも一緒に見ようよ〜」

明るい声に誘われて、好奇心でいっぱいになる。

蜜柑も、その楽しげな空間に飛び込んだ。


「占い?」

「うん!いろんなのあるんだよ」

「蜜柑ちゃんは〜今月は…絶好調みたいだよ!」

「ふーん…」

無意識に、棗の運勢占いの結果を探す。

自分のを聞けば、同時に大切な人のものも気になってしまうものだ。

目が棗の星座の欄を捉えようとしていたとき、

「蜜柑ちゃんはいいよね〜、棗くんみたいな彼氏がいて」

いきなり出てきた『棗』という名前にびっくりする。

今ちょうど棗の運勢を見ようとしていたのでドキリとした。

「そうだよね〜!あんなに格好よくて」

「クールだしね〜」

「相性占いやってみようよ!」


女子生徒たちが、棗を褒めている。

なんだかとても照れる反面、蜜柑のうちから違う感情が沸き上がるのを感じた。

女の子たちはまだ何か言っているが、蜜柑の耳にはほとんど届いてはいない。

「棗くんって蜜柑ちゃんには優しいの?」

「強い人って憧れ!」

わけもなく身体が震えてきて訳の分からない気持ちに支配される。


「蜜柑ちゃん?」


「…棗は、全然かっこよくないし、優しくもないし、全っ然よくなんかない!

 みんな騙されちゃダメやで…!」


みんなが呆気にとられている。

急に蜜柑が思いがけないことを言うので当然である。

みんなの表情を見て、蜜柑はハッと我に返り、

「…ごめん!うち帰るね!バイバイ!」

と、作り笑いを浮かべて走り去った。


思いっきり扉を開ける。

息を思いっきり吐いて寮へ帰ろうと方向を変えると、

「…おい」

思いがけない人物が壁によりかかり、こちらを見ていた。

「なっ…」

「帰るぞ」

棗はポケットに手を突っ込んだまま、先を歩く。

「なっ…棗なんでここに…?」

しかし、棗からの返答はなく、ひたすらに廊下を歩くだけだった。



「なんでっうちの部屋に入ってくるんやっ!?」

スタスタと蜜柑の部屋に入り、蜜柑が扉を閉めたことを確認すると、ダンっと音を立てて扉に身体を押し付けた。


「何す…っ」

「てめえの声なんか丸聞こえなんだよ」

蜜柑は一緒目を見開いて、強い眼差しをそそいでくる棗から目をそらす。

「聞いて…」

「どういうことだ」

顔をさらに近づけ、吐息が敏感に感じる距離にまで接近する。

蜜柑は、沈黙の時をさらに際立たせるその吐息にまでも鼓動が速くなっているのが分かる。

赤い瞳に何もかも吸い込まれそうで、顔を背けることしか出来ない。

すると、蜜柑を押し付けていた腕が片方離れたかと思うと、顎をつかまれ強引にキスされる。

無理矢理に重ねられた唇が離れたあと、必然的に正面にある棗の瞳を見つめてしまい、そらせなくなる。

「目ぇそらすな。言え」

言わずには、いられなかった。


「さっき…女の子たちが、棗の話しだして…すっごい棗のこと褒めてて…」

棗の瞳は無言で苛立ちを語っている。

早く本題に入れ、とでも言うようだ。

「うち…なんかすごい照れて…嬉しい…かったはずなんやけど、

 …自分でもよく分からんけど…嫌に…なってしまったんや」

「何がだよ」

「…多分、あの子らが棗のこと語っとったことかな…

 棗の良いとこもかっこいいとこも強いとこも…優しいとこも、うちしか知らんのんやって、言いたかった」


棗は押し付けていた腕を解き、蜜柑の頬に手を添えた。

「で…つい、あんな風に…」

「バカじゃねえの」

自分の感情を包み隠さず伝えてしまい、どんどん顔が熱くなっていく。

さらに棗の瞳が先程までとは違う、優しい輝きを放ち蜜柑を見つめているようにさえ感じてまた体温が上昇してしまう。

「バ…バカって…」

「蜜柑」

熱っぽい空気が流れ、頬に触れた棗の手が熱くなる。


「ウソつきだったんだな」

にや、と笑って耳元へキスを落とす。

ビクっと震えた身体を容赦なく甘い声と温度が満たしてゆく。

「ウソつき…って…!」

その言葉には答えず、

「俺のことを語っていいのは蜜柑だけだ」


完全に思考回路を棗の妖艶な声に止められ。


そしてその身体は唇から侵されていった。


fin.

****


あとがき。
久々なつみかんです!
書きたい衝動に駆られて書きましたよ!笑
棗に追い詰められてみたいと日々考えている管理人の変態度合いがよく出てます。
棗には「妖艶」という言葉がよく似合いますね!


written by..澪