愛情表現間違ってますか。




言葉よりも




「な〜あ棗!」

棗と隣同士にかけているソファで跳びはねる。

理由は分からないが、とにかくわくわくして仕方がないとう様子だ。


「あ?」

いつものようにそっけない、冷めた返事。

しかし返答があるというのは棗にしてはいい方なのだ。


「あんな、棗に『蜜柑が好きだー!』って言ってほしいねん!」


きらきらと輝いた蜜柑の瞳とはうらはらに棗の周りの空気は冷え始めた。


当然、蜜柑のことがすきだから、付き合っている。

蜜柑も棗の不器用さには気付いているはずだ。


それなのに、いきなり言葉を求めてくる理由が棗には分からなかった。


「なんでだよ」

「あんな、あんな!

 うち、気付いたんや。

 うちは好きなものには好きー!っていって愛情表現するけど棗はバカとかブスとかばっかりうちに言うなあって思って」

棗が蜜柑のことをすきだということを前提とした話だ。

確かに、蜜柑は棗によく言葉を贈る。

それが棗のチカラになっているのも事実だが。


「バカじゃねーの?

 俺がそんなこというと思うか?くだらねえ」

「蛍は言ってくれるって言うたもん!」

おそらく、蛍となにかそういう話をして蜜柑が相談をもちかけたのだろう。

棗は大体状況を察知した。


「やっぱバカだな」

そして、蜜柑の髪飾りを燃やす。

細い髪の束がはらりと下がる。

「なっ…なにするんやー!」

そして、ソファの下に落ちた髪飾りの残骸に目を落とす。


「絶対あんたの愛情表現は間違っとるわ!」

「うるせえ」


ふい、と棗に背を向けて蜜柑はうつむいた。

本当はいつも言葉の足りない棗が自分のことがすきなのか不安になっただけだったのだ。


すると背後にかすかな感触を覚える。

「棗…?」

なんとなく振り向けず、名前を呼んだまま固まってしまう。

棗は背中にまでおろされたやわらかな髪に唇を寄せる。

「やっぱこっちの方が似合うな」

「な…なんなの、急に」

「おまえが愛情表現がどうとかいうからだろうが」


そういって、髪の先を弄びながら今度は耳元に唇を寄せる。

「おい。こっち向け。バカ」

「またバカって…!」

もう一度振り向いた先には棗の顔がすぐ近くにあり、鼻先が触れそうだ、と意識したときにはもう唇が触れていた。


「…っ!」

目を閉じる暇さえなくただ驚いて棗の端正な顔を近くで見ているだけ。


「あんたねぇ!いきなりどういうつもりよ!

 いきなりキスやなんて…」

棗は平然とした表情で蜜柑をソファに押し付けながら頬を撫でる。


「言葉なんかより、こっちの方が伝わるだろうが」

「…っ、本当ワケ分からん…!」

にや、と口の端を歪めると、

「愛情表現、間違ってるか?」

その囁きに、蜜柑は首を横に振るしかなかった。


不安に思うことなど、一つもなかった。

もう一度重ねられた唇が心地よくて蜜柑は目を閉じた。


fin.

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あとがき。
お題2つ目です。
蜜柑は直球勝負が大好きですよね!
そして棗はその直球勝負が大好きな蜜柑が大好きなんですよね…笑(なにそれ)

written by...澪