何でこんなヤツなんかに。




ある夜。




「棗!」

「なつめ?」

「棗…」


眠れない。

棗はその大きく柔らかいベッドの中でぱっちりと目を開けていた。

いつもなら眠りについている時間なのにだ。

一人でいると、いつもいつも一つのことだけを考えてしまうのだ。


そう、蜜柑のことだけを。

自分の名前を呼ぶあの声が木霊して、あの輝くような笑顔が絶え間なく浮かぶ。


――なぜ、あんなやつを…?

続きは、分かっているが言葉にはしたくない。

まさか、自分がこんなにも誰かに落ちてしまうとは思わなかったからだ。




眠れない理由は明確だ。

蜜柑で頭がいっぱいで、蜜柑のぬくもりが恋しくて。

自分はこんなにロマンチストだったのかと自嘲する。

暗い部屋で感じる孤独は、いつもなら眠りがごまかしてくれる。


それなのに、

「みかん…」

こたえが返ってくるはずもないのに呟かずにはいられない。

抱きしめて、愛したいと思ってやまない心を押さえ付けて目を閉じる。


――なんで…
なんで、あんなヤツを。


その瞬間、急にコンコン、とかわいた音がする。

こんな深夜に、ありえるはずがない。

そう分かっていながらも心の奥には一筋の期待の糸が引っ掛かっている。


「誰だ…?」

その場からこたえてみる。

少し、かすれてしまったかもしれない。


「ウチ…蜜柑…」

バッとベッドから出て扉へ向かう。

なぜ、なぜ…?


「蜜柑…?どうした…?」

そこには寝間着のまま、棗を見上げる蜜柑が立っていた。


「な…なんや。ウチ眠れんくて…

 なんとなく、棗が呼んどる気ぃしてな。」

寝とった…?という問い掛けには答えない。



どんな気持ちで。

どんな気持ちで扉を叩いたのか。

どんな気持ちで、ああして、あんなに小さい声でこたえたのか。


ギュッ、と蜜柑の冷えた身体を部屋に抱きいれた。

「わっ…」

「バカじゃねぇの?

 分かってんだろ?」

「…うん」

部屋の明かりは消したまま。

お互いの体温を感じながら、きっと心地よい眠りにつくことができるだろう。


なぜ?あんなヤツが…?

それはきっと、一番繋がっている光に誘われただけだ。

当たり前のように。


fin.

****


あとがき。
お題に挑戦です。
なんだか全く関係ない気がしないでもないですが笑
最初はちょっと棗の心の葛藤を書いてみました。
彼の苦悩を救えるのは蜜柑ちゃんだけなのです!


written by..澪