ヒコウキグモと、暑いヒザシ。
蜜柑の意見
雨の季節も終わり、風もなまぬるく空気も熱せられたかのような暑さ。
そんな中でも涼しい顔をした棗は、
「…なあ、何見てんだ?」
やけに真剣な目で何かを凝視している蜜柑に尋ねた。
いつもなら蜜柑はなかなか本なんかに夢中になることはない。
しかも、棗がいるのに、だ。
だからいつものハスキーボイスには不機嫌さも入り交じっている。
「蛍から借りた雑誌や」
「そんなにおもしろいか」
棗としては嫌みもこめて言ったはずなのだが、蜜柑には通じていないらしく、
「学園では、あんまり流行りのドラマとか見れへんからな」
と、笑って言うのだった。
もう、棗は何も言わずにじっと蜜柑を見ていたがふいに蜜柑の顔が変化した。
何か言いたげに、棗に視線を送る。
「…なんだよ」
聞かずにはいられず、蜜柑に近寄る。
「なんでかなあ…ラブストーリーってな、冬の話が多いんや」
「あ?」
また何を言い出すのか。
しかしその真剣な姿には続きがありそうで。
「まあ冬は確かにいろんなイベントがあるけどな。
でもうちは夏こそが恋の季節だと思うねん!」
「なんでだ?」
「うち、夏は元気になれるんや。
つらいこともお天道様が消してくれる気がしてな!
たのしいこと考えるのにぴったりな時や。
そやから好きな人のことだけ考えて嬉しくなれる季節や思うんよ」
理屈ではよく理解できない蜜柑の思考。
しかし感覚で、なんとなく言いたいことが分かる。
「おまえは…今、俺のこと考えて嬉しくなってんのかよ」
「まあな。さっき、聞いてくれて嬉しかった」
輝くような笑みがこぼれる。
夏の太陽にも負けないくらいのその笑顔。
「俺も夏はいいと思うぜ。
…脱いでも…寒くねぇしな」
そして優しく唇に一つ、キスを落とす。
真っ赤になった蜜柑とは対照的なあやしい笑み。
しかし、それはただの照れ隠しであって、その素顔は蜜柑の笑顔にやられた一人の少年なのだ。
「…この、エロギツネが…っ!
…あれ、棗も顔赤いで?」
眩しい陽射しにあてられて。
その真っ赤な顔は無理矢理に暑さのせいにして。
恋人たちの季節はまだ、始まったばかりなのだった。
fin.
****
あとがき。
蛍が雑誌を持っているかは謎です笑
でも夏って恋の季節ですよね〜!
【学園アリス 2007年特別夏休み企画に出展しました】
written by...澪