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泉 *セン*
恋のしずくが一粒ずつ溜まっていって愛という名の泉となるのです
「はいみんな。
いつものようにおもしろくしてみましたが、どうかな〜?」
教室は異様な雰囲気に包まれていた。
「こんな楽しいテスト他にないよね〜」
ナルだけは笑顔でくるくると教壇の周りを回っているが、生徒一同無言で困りきっている。
ナルのテストは点数が取りにくい。
よくそんな風に言われているが、まさにこのテストがそれだ。
――『泉』という文字から連想されることを書け。書き方は自由。習った漢字を5つ以上は使うこと。おもしろいければおもしろいほど高得点。平凡なものは減点。
おもしろければ高得点は分かる。
しかし、平凡なものは減点。
それが生徒の困るところであった。
『泉』という一文字から奇抜なものを想像しろというのも難しい話である。
「みんなナルのテストなんて書いた…?」
しばらくそんな話題で学園中がもちきりになった。
もちろん蜜柑たちも例外ではない。
「ウチ結構自信あるわ!」
蜜柑は、右手でガッツポーズを作る。
顔はきらきらとしていて、その自信のほどが伺えるほどだ。
「あんたは…なんて書いたの」
「ふふっ、秘密や〜!蛍は?」
蛍はふっ、と静かに笑って、
「…人間だって書いたわ。
わたしに群がり、お金をたくさん貢いでくれる人はどんどん湧き出てくるんだもの。泉のように」
少し楽しそうに聞こえるのが蛍らしいが恐ろしい。
瞳の中に鋭い光を見たような気がした蜜柑であった。
「るかぴょんはなんて書いた〜?」
「俺?…俺は…、動物たちがたくさんいて、なんか休息をとってるんじゃないかな〜って。
そこで動物たちと一緒に水遊びでもしたいな…とか…」
一瞬自分の世界に入り込み始めていたが我に返り、恥ずかしさが込み上げる。
「ごめん…変だよな」
蜜柑は、真っ赤な顔でうつむく流架の顔をのぞきこみ、
「ウチは全然そうは思わんよ。
鳴海先生もきっと笑ったりせぇへん!」
あどけない笑顔と輝いた衝撃を流架の胸に残し、去ってゆく。
もちろん、蜜柑は棗のところに向かったのだった。
テストが終わってすぐ、どこかへ行ってしまった棗を走って捜す。
蜜柑は、最近では棗の居場所がよく分かるようになっている。
付き合い始めてからのことだが、なんとなく気配を察知できるような感じがするから不思議だ。
「愛の力」というには大袈裟だし、恥ずかしかったので何も言わなかったが内心はとても嬉しかった。
「あ!棗」
「…どうした」
蜜柑はすぐ近くにあったベンチに腰掛ける。
「鳴海先生のテスト、あんたなんて書いたの?」
もしかして棗が真面目にテストを受けたのではないかと期待していたのだが、案の定、
「白紙」
見事に裏切られてしまった。
「てめーはなんて書いたんだよ」
さりげなく蜜柑に近づき、隣に座る。
すると、蜜柑は一瞬驚いたがすぐにやわらかな笑顔になった。
「ウチはな、なんや心のようやな〜と思うてん」
「?」
訝しげな表情の棗に気付くと、また話を続けた。
「いろんな想いが集まって、大きな泉のような心になっていくねん」
その小さな手で空中に大きな円を描く。
そして棗の方を向き、顔をのぞきこむ。
大きな瞳と目が合って、吸い込まれそうになりながらも見つめ返す。
「…なんだよ」
「…うちな、今までこんなことなかったんやけど、最近…その、心の泉が。
棗への想いで溢れそうなときがあるんや」
まばたきを一つ、二つ繰り返すたびに揺れる睫毛を気にしながら棗は蜜柑を見つめたまま。
「おまえ、詩人か?」
からかうような瞳が蜜柑を見上げる。
その視線はまるでほんものの猫のようで。
「そっそんなこと言われたら恥ずかしくなるやろ!
…棗は、どうなんや…」
うつむく瞳は不安の色を帯びている。
たまに見せるそんな表情は棗の心を。
「…とっくに、溢れてるにきまってんだろ」
心を。溢れさせるきっかけとなっているのだった。
他の人には見せることのない不安の裏に熱情がちらつく瞳。
そんな瞳に吸い込まれ、やわらかな言葉に癒され、煌らかな笑顔に想いを焦がす。
そして蜜柑は、すこし大人びた微笑みを見せる。
どちらからともない自然な口づけの瞬間にまた、泉の溢れる音がした。
ちなみに蜜柑は後日ナルから見たこともないような高得点をもらったとか。
fin.
****
あとがき。
お礼SSです。
はい。また例のごとくおそろしくこぎつけな訳の分からないものを書いてしまいました!笑
なかなか蜜柑ちゃんは詩人だってイメージを持っているんですがどうなんでしょうか。
2000ヒットありがとうございました!
written by..澪